61   田中康夫さんのこと
更新日時:
2001/03/18 
 バブル華やかなりし頃、時々香港に行っていたことがあります。「ペニンシュラ・ホテル」・グランドフロアのショッピング・アーケード「BALLY」に、いまはもうカナダ・カルガリーに移住(香港の中国返還の前年)したOld Friendがいまして、彼との雑談と会食が楽しみで行っていました。
そんなある夜のこと、会食を終えてホテル(REGENT)に戻り、フロントでルーム・キーを受け取ってエレベーターのほうに向かおうとしたら、額に汗して、大きくて重そうな荷物をエッチラ、オッチラひきずるように運んでいる同朋がいるではありませんか。  康夫ちゃんでした。
ベル・ボーイはそこかしこにいるから、彼らに持たせればよいものを、あんなにたくさんの旅行バッグなのに、と一瞬思ったのですが、すぐに、そうか、ああいうところが田中康夫の田中康夫たる所以(ゆえん)なのかと思い直しました。
 ふっと目があった時に彼がみせた表情、なんとも良かったですね。長野県知事としてメディアのマイクに向かって話す顔とは大違い。爽やかな顔でした。
あの頃、康夫ちゃんは香港経由で頻繁にヨーロッパに行ってました。そのことは彼の「ファティッシュ考現学」に書かれているので省きますけど、何故香港経由なんだ?と思いませんか。
 それはつまり、彼が思いの外「Save Money」の人で、東京でまともに航空券を買うのがバカバカしかったのですね。日本航空は1ドル=280円ほどの為替レートで運賃を設定していました。他の航空会社も日航に追随する。米ドルの実勢レートは限りなく100円に近づいているというご時世であったにもかかわらず。
この日航のやり方が彼は気に入らなかった。香港経由でパリやミラノへ行くには時間もかかる。しかし、彼はそんなことより運賃が安いほうがいいし、まずもって日航への抗議の意味合いもあった。香港で航空券を購入すれば、大雑把にいって日本の3分の1強で買えました。田中康夫の理不尽なものに対する反抗精神は今に始まったことではないのです。
 

  62   あやしの魔力ー3
更新日時:
2001/03/21 
 だいたいガイドたる者の心得として、客より早く集合場所に来るのは当たり前のように思いますが、英語・バスのガイド、客より20分遅れてやってきた。
待っている20分は異様に長く、三倍は長く感じたのでありましたが、やっこさん悪びれたところは微塵も見せず、足早にバスに乗り込む。
ほかの客の反応はいかにと何人かの顔を観察したのですが、平気なんですな、これが。
要するに、20分は遅れたうちに入らない、所変われば品変わるゆえこんなものかと思ったが、さにあらず。このガイド、よれよれのコートを着ているのに、よく見ると似合っている。さらに観察すると、風貌は東欧のやりてスパイもかくありなんと思える面構え。大きな鉤鼻、キュッと締まった唇、尖った耳、狭い額、憂いをおびた眼、低いがよくとおる声、ネイティブ・スピーカー顔負けの英語、まるで、アレック・ギネスがスクリーンから飛び出して来たかのような雰囲気を醸し出しているんですな。
 
 そうか、この強烈な存在感がみなを惹きつけて、ひと言の文句はおろか、不満気な表情さえ浮かべさせなかったのかと納得しました。
50を五つ六つ越えていたでしょう。にもかかわらず、男の魅力ムンムン、頼もしいというか、Hというか、たいしたガイドでありました。
昔はスパイであったに相違ありません。それが、旧・ソ連の解体、東西冷戦構造の消滅かなんかで職をなくしたのでしょう。
それで今はスパイ時代に鳴らした語学でガイドをしているに違いありません。

  63   あやしの魔力ー2
更新日時:
2001/03/18 
 96年10月プラハを訪れたとき、市内の旅行代理店でカルロ・ヴィヴァリまでの英語日帰りバス(ガイドが英語で説明してくれる)の予約をしました。
日本でもチェコ政府の観光局を通して予約できるのですが、ちと高い。また、いったん予約すると払い戻しがきかない。面倒でなければ現地にてコトをすませるのがよろしかろうと思います。
 
 さて、この日帰りバス・ツアーは思いの外面白い。
様々な国から旅行者が参加しているせいか、国際色豊かで色々の言語が飛び交う。英語もアメリカ語、キングス・イングリッシュ、オージー英語、カナダ英語、北京英語(?)と実に多彩。
乗客の中にドイツ人やフランス人などもいたのですが、どうしてわざわざ母国語でもない英語・バスを選んだのか不思議だったので訊いてみました。(日帰りバスは英語のほかにドイツ語・バスもフランス語・バスもあるのです)
年の頃40代半ばでフランスのナントに住んでいるそのムッシュは、「フランス語の発音が聞きづらいし、文法の間違いも多いからしゃくにさわる。いっそ英語のほうがイライラせずにすむ」ということでした……。
 
 カナダのバンクーバーから来たハンサム中年男は、自分の座席近くの同性すべてに「ゴルフ」の話をもちかけていました。
彼とはその夜偶然ホテルのエレベーター前で出くわした。
同じホテルに泊まっているのも何かの縁と思うのは我々だけではないようで、横にいる奥さん(太めのミス・マープル風。貫禄十分)が彼を制するまで延々とお喋りなされました。ふたりともオペラ帰りで、たまたまその時イタリアの著名なメゾ・ソプラノが出ていたので、彼女の歌はどうでしたか?と尋ねました。
どうやら歌の間は居眠りかなにかなされていたようで(オペラから歌を取ったら何が残りましょうや。序曲と間奏曲しか残らないではありませんか)、しきりに国立歌劇場の内装の絢爛にして豪華なありさまの説明を、特にシャンデリアが見事であったことを力説されておられました。
 

  64   あやしの魔力ー1
更新日時:
2001/03/18 
 旅行エッセイといいますと、我が国では男児の定番は開高健、女性のそれは、そんなものあったんかいな?
旅の目的などというものは年とともに変化するのが普通で、変わらない人はどうかしているのでござります。そのどうかしている者の中にわたくしも入っているのでありまするが、30年来、遺跡と美術館巡り。
もう、これに血道を挙げすぎて、食文化や写真撮影などに凝り出したのはここ10年間のことであります。それはともかく、旅のエッセイにはホンマかいなと思うことが少なからず書かれている。だいたい作家、エッセイストなどが書いた紀行文、エッセイなどロクなものがない。
想像力、表現力、おまけにエネルギーまで有り余っている人種ゆえ、つまらないことを面白おかしく作ってしまう。その種の才能の長けた連中の作り話は読んで面白くても信用してはなりませぬ。
 
 いくら海外といっても、美男美女がそこかしこにワンサカいるものでもなし、うまい料理が安く提供されるわけのものでもありません。
ホテルも経営形態や従業員が変われば、サービスも様変わりいたします。
サービスどころか、ホントに同じホテルなの?と首をかしげたくなるような事もござります。
ところで、ミッシュランの赤本の星の数、あれをいまだに信奉しておられるファンも多いかと思いますが、確かに店の雰囲気と皿の出来は星の数に比例して豪華になります。しかし、すべてはそこまで。味は別の話でござります。
 
 うまい、安い、雰囲気もいい、そんなお店のスペシャル版をその内こしらえたいと思っております。

  65   のこされた時間は僅か?
更新日時:
2001/03/18 
 旅といいますと時間とお金、健康と状況が許さないとなかなか実現できるものではないと思っている人多いのではないでしょうか。
たしかにそれは一理も二理もあるわけでして、四つの条件すべてがそろっていてこそ快適かつ充実した旅は可能となるに違いありません。
でも待てよ、上記のもの全部そろったとして旅に出ますでしょうか?
 
 旅に出る人は出る理由、出ない人は出ない理由をそれぞれに考えて、まあ、ありていに申しますると、出てもエクスキューズ、出なくてもエクスキューズをその度ごとに作って旅するのではありますまいか。
 
 思い切りのいい人悪い人とり混ぜて、最後の決断を下すカギとなるのは何でしょう。小生の愚考するところによりますると、それは情熱の有無ということになるのでありまして、そこそこ中年かな、なんて情けない羽目に陥りますと、この情熱が若かりし頃にも増して重要な意味を持ってくるのでござります。
他でもう一花咲かそうなどと大それた事を考えているむきには別ですけどね。
 
単純な引き算(足し算?)をしても、今まで生きてきた年数よりか残された年数のほうが少ないと思ったら最後、あなたは情熱の虜(とりこ)となる資格十分です。
そして、実はこの情熱の発露が、情熱の花を咲かせる事こそが、旅を作る秘密の鍵のような気がするのでありますが、如何なものでござりましょう。


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