チャンでもラムでもレディでもない、ロカマドール・「ホテル・シャトー」のアグネスの話です。
99年10月1日弥次喜多と遠山の金さんの三人が連れ立って旅に出たと思って下さい。スコットランドと南西フランス・ミディピレネー20日間の旅。この旅行は余りにたくさんの出来事があり過ぎて何度かに分けて語らねばなりませんが、今回は真面目なお話。
スコットランドのストーンヘイブン、ピットロッホリー、グレンコー、スターリングなどをレンタカーで回り、エジンバラからトゥールーズへ空路で来た。
そこからフランス鉄道を利用して、カルカソンヌ、アルビ、ロカマドール、サルラ(サルラ・カネダ)と移動したのですが、なにしろローカル駅のことゆえ、日本と異なり駅前タクシーなどというものは一里四方影も形もありません。
カルカソンヌでもアルビでも駅付近の公衆電話でタクシーを呼び出さねばならない。無線タクシーですな。これが殆ど個人営業なので、携帯か、さもなくば自宅の奥さんか、愛人の家につながる。自宅につながればまだしも、ラマンの家だとチト面倒でして、ラマンと事に及んでいたらえらいこと、電話に出ないか、出てもケンもホロロ、とりつく島もない。
従ってタクシーは来ないか、来ても到着まで時間がかかる。まあ、タクシーの来るのをのんびり待つしかございません。来てくれればオンの字でしょうな。
ロカマドールという中世の巡礼都市がありまして、この町の絶壁の上に実に眺めのよい修道院がある。
ここに行きたくて、ロカマドール駅で下車しました。二両編成のひなびた列車にはわれわれの他には客ひとり、ロカマドールで降りたのはわれわれだけ。
えらいこっちゃ、駅前に公衆電話あるやろか、列車から降りた途端に目の前が薄暗くなりました。
しかし、あった、公衆電話ボックスは駅前にありました。それ以外は廃屋が2軒と人はいないが、馬が2頭庭で遊んでいる家だけ。
不吉な予感がしつつも無線タクシーを呼ぶしかない。駅の掲示板に個人タクシーの電話番号が二種類書き込んであったので、震える手でプッシュした。
最初は自宅でしょうな、奥さんらしき人が早口のフランス語でなにやらのたまっておりました。もそっとゆっくり話してくれと言ったら、「出かけている」という意味のフランス語をゆ、っ、く、り言ってくれた。
次はあきらかにラマンですな、携帯からの転送でした。ラマンが直に出て、英語で「取り込み中だから配車できません、ごめんなさいムッシュ」と艶のある声で言う。ちょっと鼻にかかっていましてな、幸せそうな声でした。
もう破れかぶれ、ホテルに連絡するしかないと思い電話した。
出た声は事務的で、無線タクシーの電話番号を教えてくれた。それはわたしが先程TELした所と全く同じ。事情を言って何とかならないかと注文をつけた。
一瞬の無言状態の後、そこで待っていろという返事がありました。
馬2頭を眺めながら、待つこと20分、ダーク・グレイのオペル・ベクトラが風を切り颯爽とやって来た。
ドライバーは年の頃26、7の上背のあるがっしりした女性でした。
名はアグネス、ホテルのオーナーの娘さんで、わたしとFAXでやりとりした当の本人、ものの言い方はぶっきらぼう、しかし、弥次喜多と金さんが感謝の言葉を言ったら、ポッと頬を染めたときのあの顔、忘れられません。
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