61      シラクの小遣い
フランスという国は面白い。何が面白いかといって、この国ほど女性スキャンダルに対して寛大な国も少ないが、金銭スキャンダルには結構うるさい。女性といえばmoneyのからむこと洋の東西の別はなく、女性スキャンダル=金銭であると私は思うのであるが、女性と金銭を区別する国民性が面白いのである。
 
 この世で女性の歓心を得るもっとも手っ取り早いメディアはお金である。それは貨幣が使用されるようになって以来、人類普遍の法則であろう。
勿論わたしはすべての女性の歓心が金で買えるとは思っていない。金に毅然と抵抗する女性、また金と聞くだけで反骨心をむき出しにする女性も知らぬわけではない。
 
 フランスの前大統領・ミッテラン氏(故人)に愛人がいて、その女性との間に美人のお嬢さんがいたのは公然の秘密で、そんなことをフランスの新聞雑誌は意にも介さず、むしろミッテラン氏に蔭でエールを送っていたくらいであった。
 
 これはフランスに限らないが、ヨーロッパにおいては、教会の広場で皆を前にして告解して許しを乞えば、その勇気に免じて罪を許すという伝統がある。逆に、告解もせず蔭でこそこそすると皆の非難の対象となる。
 
 かれらは勇気に重きをおき、罪を犯すことより、こそこそする事のほうが悪であるという風潮が中世以来市民の価値観として定着している。ミッテランも愛人と娘のことを公表したから許され、支持されたのである。
 
 クリントン氏の「不適切な関係」も同様、全国ネットのテレビ画面で米国民に陳謝したからクリントンは許され容認された。まさに贖罪とはこのことをいうのかと感心した、これが西欧の宗教的価値観なのかと。
 
 さてシラク氏がパリ市長時代の92年〜95年、(旅行代理店で)封筒に入れた現金で旅行費用を支払っていたらしいのであるが、その現金の出所がいま問題になっている。シラク氏が仏大統領に就任したのは95年、したがって就任直前まで支払っていたということになる。
 
 旅行先はニューヨーク、東京などで、ひとりのことも次女を伴って旅したこともあったらしい。シラク氏というと日本通で鳴っているが、ともかくその支払い総額が「フランス2」(むこうのテレビチャンネル)によると200万フランを越えているとか。
 
 3400〜3500万円ということですか、たいしたことないじゃないの、4年間の旅で航空機はファースト・クラス、ホテルはスイート・ルーム、食事にしたって一人数万円はつくだろうし、合計20回の旅行費用としてなら200万フランは妥当な金額ではないだろうか。
 
 これが実はそんなに軽い問題ではないらしい。日本の外交機密費に近い性格の金を使ったのではないかという嫌疑がかかっているのである。シラク氏はどうかは知らないが、大統領府が裁判所からのシラク氏に対する証人喚問には応じないという声明を発表したのだ。(市長時代のことだから、まけておけという事か? まさかね)
 
 シラク氏は前述のように95年に大統領に就任したから、任期はまだ1年のこっている(仏大統領の任期は7年)。そういう時期になると、この手のスキャンダルがどこからともなく出てくるのである。来年の選挙での再選阻止が目的という見え見えのことはやらぬであろうが、まあそれに近い理由があるのかもしれない。
 
 シラクさん、あれは自分の小遣いだと思っていたけど、えらいすいません、明日、自分の預金をおろしてお返しします、そう言えば簡単にケリがつくのじゃありませんか、寛大なフランス人だもの、相手は。
でもやっぱりダメか、女性スキャンダルではなく金銭スキャンダルだから。
 
 
更新日時:
2001/07/12
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