6      将軍と将軍様
 
 かつてこの国にも将軍がいた。将軍は中央集権国家を標榜し、武家諸法度や公家諸法度を制定し、ほかにも様々な規則や制限を設けて諸大名の行動を規制した。
身分制度をしき、支配階級である武士をその最上位においた。国内旅行するにも許可を得なければならず、必要に応じて通行手形を発行し、民間の行動を束縛したという。
 
 将軍の手の及ばなかったのは、将軍に対する崇拝の念である。人々が将軍をあがめたてまつるという教育を全国津々浦々に浸透させなかったから、またそうした必要もなかったからである。所詮、人の心に戸は立てられない。
そしてまた、将軍はオランダ、中国以外の国との交易を禁じ、二国の出入りを長崎・出島のみに制限した。
 
 将軍と幕臣は幕府の末長い存続と繁栄のための方策を考え、その方策が功を奏せば、この国全体の維持につながることを目論んだ。日照不足や干ばつなどの飢饉が農村を襲った年、農民は悲惨な目にあったが、それ以外はおおむね暮らしを立てることはできたようである。
 
 初代将軍様は将軍がいなくなって約80年後に現れた、人民の救世主という表の顔を持って。彼は将軍よりも強固な中央集権制度の下に、自国民すべてを教育という手段を使って自らを崇拝させた。将軍様は神より偉い、将軍様は父母より愛情に満ちている、将軍様への奉仕は崇高な行為である。
 
 将軍様とその家族は将軍の側室に当たる妙齢の美女と閨房を共にすることができる。なんでも「よろこび組」というのだそうである。よろこび組に在籍する女性たちはそれを誇りとしているようで、その様子はオウムと呼ばれた宗教集団の麻原某を連想させる。麻原もそこの将軍様であったのか?
 
 昔も今も巷にはニセ将軍様があふれ、権力にモノをいわせて好き放題をしている模様であるが、本家本元の二代目将軍様は筋金入りで、巷間伝え聞くところによると、麻薬・覚醒剤やニセ米ドルを秘密工場で大量に作って、それを輸出し外貨を稼いでいるとのことらしい。
何のための外貨稼ぎかといえば、それをスイスなどの銀行の匿名口座に預金して、まさかのときの生活資金にあてるものと思われる。
 
 以前、二代目将軍様の息子がお忍びで来日したがその目的は都内での高級ソープでの悦楽のためであったという。
偽造旅券で来日したのだから、他の不法入国者同様しかるべき法的手段を行使して数ヶ月拘留すればよかったのだが、当時の弱腰政府は、関わり合いになること避けて助平息子を帰してしまった。かえすがえすも残念である、拉致家族の子供たちは返されないのに。
 
 将軍様を支援する物好きもいるもので、現在ロシアと中国が、将軍様の政府などとはとうてい呼べないシロモノの独裁体制を支持している。過去の経緯、つまり、1950〜53年の半島を二分する戦争で、両国が米国に対抗するために先代将軍様に加担して軍隊を送った歴史が営々と生きているのである。
 
 時代錯誤といってはいけない、特に中国は百年単位で政局を判断し、常に彼らの歴史認識は一世紀おくれているのだ。将軍様はそれをもっけの幸いと中露両国を味方につけているのである。時代錯誤ではなく、大時代なのだ。ある政治判断が決定されるのにも、変更されるのにも百年かかる。
 
 将軍様は国民生活には無関心で、米国と不可侵条約を結ぶか、身の安全を米国が保証してくれるかに血まなこになっている。自国民のためを思えば、食糧援助をはじめとする経済援助こそ焦眉の急であろうに、おのれと息子の保身に血道をあげ、相手が首を縦に振らねば、毎度おなじみの脅しである。
 
 とはいっても、崇拝できる人物の稀な昨今、崇拝する人物を持つ国の人民はむしろ仕合わせなのかもしれない。競技場の女性応援団はよろこびにあふれた顔をしているもの、身も心も将軍様に捧げたかのような、あるいは、薬物を飲まされ洗脳されたかのような。
ありゃ昔の大奥よりすごい、いや、ひどい。ああまで行くと、どさ回りの芸人も優越感を感じるほどひどいし、演技もクサい。
 
  スポンサー・将軍様への忠誠心と媚とがないまぜになって倒錯した結果がああいうファナティックな言動となる。
彼女らは金太郎飴なのかもしれない。将軍様の歓び飴、どこを割っても同じ顔。将軍様は金太郎飴と核兵器整備のための時間稼ぎがことのほかお気に入りのようである。 
更新日時:
2003/09/01
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