5      平安末期
 
 この二年間で、各省庁や特殊法人の税金の無駄使いや、組織ぐるみの隠蔽にスポットをあて、国民にその実体の一部を提示せしめたのはだれであったか。猪瀬直樹氏のように、国民に代わって国民の気持をストレートに言っているのは、だれの指示でそうなったのか。
いままで、やれ政策、これ政策と念仏でも唱えるように政策を口にし、いつも官僚の厚い壁に抗しきれず、政策のすべてが骨抜きにされ、そのたびに国民をがっかりさせ、ついには殆どの国民が政治家を信用しなくなった元凶を根治するべく立ち上がったのはだれだったか。
 
 一国の総理に必要な資質は政策の上手下手ではない、党内の反対勢力や官僚の抵抗をはねのけ、掲げた政策を国民のために実行するリーダーシップである、彼らに懐柔されることのない意志の強さと勇気である。
高村某という一見柔和で中庸風の政治家がいるが、彼のようなタイプは、党内族議員や官僚の圧力に抗しきれず、せっかく掲げた政策のすべてを結果的にドブに捨てるであろう。そして、実際に施行される政策は、元のものとは似ても似つかぬオカメである。
 
 亀井静香氏は憂国の士であると思う。しかし、派閥のボスで先輩の江藤氏は時代錯誤の人であり、最大派閥橋本派や古賀某の支援を受けたとなれば、万が一亀井氏が総理総裁となったとき、ポマード男や野中氏、古賀某の強い影響下に置かれることとなり、上記の隠蔽や税金の無駄使いが再び行なわれ、猪瀬氏などの国民派はすべて首を切られよう。多くの国民が反発するのは目にみえている。
 
 苦労人青木氏や穏健派堀内氏は、単に小泉人気をあてこんだ選挙のためだけでなく(選挙は当然彼らの念頭にある)、時計を逆戻りさせないためにも、各々の派内の議員を不要な締めつけから解放するためにも、ここは踏んばりどきと小泉支持を表明したのである。
 
 小泉改革反対は党内の反対勢力だけではない、郵政民営化に反対の特定郵便局、日本最大の圧力団体・日本医師会も、健保の自己負担率三割を敢行し、さらに、健保の膨大な累積赤字を減らすべく努力する方針を打ち出している小泉改革に対して猛烈に反対をとなえている。
 
 だが、時計は刻々と時をきざんでいる、後戻りすれば、それなりの苦汁を飲まされる、飲むのはほかでもない、私たちである。過日、策士小沢一郎が大きな賭けに出た。小泉さんが総裁選に敗れたとき、自民党政治が終焉を迎えると小沢氏は読んでいる。
小泉さんが敗れたら、相変わらず自民党は国民不在の政治をつづけようとしていると国民は看破し、国会解散後の総選挙で自民党は大敗するだろう。
 
 それをあらかじめ予測して、石原慎太郎氏を担ぎ出すというシナリオを書いている御仁もいるが、それしきで国民は納得すまい。それにだいいち石原氏は動くまい。
 
 しかししかし、野中氏、亀井氏が自民党総裁と内閣総理大臣分離をぶちあげたら、つまり、総選挙の自民党勝利の切り札として、総裁は亀井氏、総理は石原氏ということで石原氏を口説いたら、いや、すでに先頃の会合でそう口説いたかもしれない。だから、石原氏は、「大変だ、大変だ、めったに人に言えない話だ。」と言ったのではあるまいか。
 
 いまの世相のなかでも政治の様相は、あたかも平安時代末期を連想させる。藤原氏の長期政権が衰退し、保元・平治の乱後平家の台頭があり、源平の合戦のあと源氏が権力を握ったかにみえたが、源氏同士の骨肉の争いもあって源氏は衰え、結局実権は北条氏が掌握した。
 
 めまぐるしいほどの交代劇である。そういう交代劇が行なわれれば、国も衰退するだろう。シラケムードにいっそう拍車もかかるだろう。
平安末期にしないために、今回だけは小泉さんの頭(こうべ)に月桂樹の戴冠をと思うのである。二大政党制(自民vs民主)はそれから後の話である。近未来にそうなることが望ましい。
更新日時:
2003/09/05
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