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 なんとも表現しがたいようなおぞましい惨劇が北米東部で勃発した。このような卑劣きわまりないテロ行為は、いかなる理由と言い分があろうと許されるべきものではない。また、多くの無辜の民の尊い命を奪うという行為は、思想や宗教、主義の相違を越えて罪悪以外の何物でもない。
 
 今回の同時多発テロが世界に与えた衝撃は計り知れないものがあるように思う。民間の定期便をハイジャックし、乗員・乗客もろともアメリカを象徴する超高層ビル目がけて激突するとは、一体だれが予想しえたであろうか。
 
 テレビであの映像を見たとき、これは悪魔のシナリオであると思った。魔界に棲む首謀者たちが時間をたっぷりかけて、周到に準備した21世紀最初の冷酷非道のシナリオ。
 
 ハイジャック犯は祖国の英雄。アメリカと敵対関係にある国々のうちで、アメリカ軍を中心に編成されたNATO・国連軍の空爆によって犠牲になった市井の民の遺族の多くは、もしかしたら拍手を送っているかもしれない。
 
 世界の警察を自認し、その強大な軍事力と経済力で地球を支配していたかのようなアメリカの権威は失墜し、面目丸潰れ、攻めには強いが、守りには弱い体質を露呈した。アメリカ国民にとって、あまりに大きい衝撃と犠牲は、自国政府に対する不信感となって、今後しばらく尾を曳くだろう。
 
 首謀者の狙いはそこにあったように思う。このテロ行為がアメリカのみならず、世界に投げかける衝撃の大きさは、かれらのシナリオに折り込みずみであるだろう。
誤解を恐れずにいうと、今世紀最初の悪魔のなせる阿鼻叫喚のシナリオは、立場をかえると、今世紀最初の快挙であるのかもしれない。
 
 首謀者の思惑が容易に想像できるだけに、余計に怒りが募ってくる。こんな事がまかり通るようなら、21世紀はお先真っ暗、アメリカをはじめとする主要諸国に滞在している同胞と家族は、安心して生活できないのではあるまいか。
 
 こんな惨劇は滅多におきるものではない、そう考えるのは楽天的思考の持ち主というか、平和な国に暮らし、テロとは無縁の生活を送る幸福な人々の考えであって、それはそれである。
 
 地球上には様々な国が存在し、様々な思想、主義、宗教、あるいは価値観が存在する。わたしたちにとっては罪悪そのものの行いであっても、かれらには、神が許し給うた天国行きの免罪符であるという価値観も存在するのである。イスラーム・原理主義とはそういうものである。それを認識できるから、前述のごとく怒り心頭に発するのである。
 
 このテロ行為の背景は、単に奥が深いというものではなく、21世紀の反アメリカの政治的・思想的背景、あるいはイスラーム原理主義的構図を暗示しているような気がする。
 
 21世紀は、スタートから暗礁に乗り上げた。それは、英国のビクトリア女王が死亡し、その後彼女の孫であるプロシア(ドイツ)のウィルヘルム2世と大英帝国のジョージ5世が第一次大戦で相争ったことや、タイタニック号がニューファンドランドの冷たい海に沈んだ20世紀のスタートを思い起こさせる。
 
 きょうという日より、明日という日が良い日であることを願ってやまない。
 
       2001年9月12日午前11時35分 記す
 
    
更新日時:
2001/09/12
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