54      帰ってきた久米宏
 「今日のトピック」に彼のことをかくのはどうかとも思った。久米宏はいつも肝心な時にはいないのである。毎年8〜9月に3週間ほど夏休みを取って、主にイタリアやスペイン、英国のどこかの町に滞在しているからである。
 
 ソ連邦解体の時もいなかった。湾岸戦争の時もいなかった。ダイアナさんの事故の時もいなかった。17歳の高校生によるバスジャックの時もいなかった。とにかく、いないのだ。
 
 毎年どういうわけか大事件は8月、9月に起きる傾向にある。久米宏が帰国する頃、ほとんどの事件は一件落着していて、久米宏は喋ることがない。テレビの前にいるわれわれも肩すかしを食わされたままである。
 
 しかし、今回はいつもと違っていた。彼は夏休みを途中で切り上げ日本に帰ってきた。9月11日(月)の10時半ごろ、私とつれあいは思わず顔を見合わせてつぶやいた。また久米宏いないねと(久米宏は今週から3週間ほどいないはずであった)。
 
 現在、この国のテレビのニュース番組のアンカーマンとして、久米宏は最も優秀な人である。この人のおかげでニュースがより身近なものとなった。この人の読むニュースは単に分かりやすいというだけでなく、記憶に残る。これはすごい事なのである。普通ニュースは記憶には残らない。なぜなら毎日がニュースの連続で、いちいち記憶になど残しているようでは、次まで持たない、われわれもかれらも。
 
 なぜ記憶に残るのか、その理由は実はよく分からない。久米宏の切り込み方がうまいのか、かれの語り口が事件の本質にせまる類のものなのか、人間の正体をえぐり出すのが得意なのか、もともと久米宏がニュースに対して全・久米宏を賭けているから、おのずと気合いの入れ方がすごいのか、従って、他のぼんやりアンカーマンより存在感が強いのか‥ その結果、記憶に残りやすいのか‥
 
 何度考えてもよく分からない。分からないが、久米宏はこの国の最高のアンカーマンなのである。ちなみに、最高のアンカーウーマンは「クローズ・アップ現代」の国谷裕子(くにやひろこ)さんである。
 
 
 
更新日時:
2001/09/13
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