53      米国の真意(または三極構造)
 アメリカは今回のテロ行為を戦争とみなし、首謀者一味を支援する国または組織に対して、空爆をはじめとする報復措置を行うという。
 
 米ソ冷戦後、すなわちソ連邦の崩壊後、米国の動向に注目せざるをえなかったのだが、それがこんなに早く、このような形で、世界最強の米国の軍事力が発揮されることになろうとは、思いもよらなかった。かつてバグダッドなどのイラクの町に空爆を行ったのは、記憶に新しいところであるが、あの時は、クウェートと民主主義を守るためというのがアメリカの大義名分であった。
 
 今回は周知の通り、多くの米国民が犠牲になり、米国内に大きな衝撃が走り、かくも残忍なテロ行為は宣戦布告にも等しく、米国と世界の民主主義を守るための攻撃であると米国は主張している。
 
 額面通りに受け取れば、まことにもっともの大義名分である。
まさに国民の9割が双手をあげて喝采をあげそうな類の大義名分であろう。しかし、利にさとい米国政府や上下院議員の多くが、膨大な(4兆円強ともいわれる)ドルを費やして、ただ報復と民主主義を守るために云々ということで戦闘行為を行うとは到底信じがたい。
 
 現在米国は少しずつ不況の波が押し寄せつつある。日本もそうだが、今後失業率はさらに高くなるだろう。失業者の不満は、どこに集約あるいは吸収されるのか。アメリカは世界最大の他民族国家である。アメリカ国民といっても、価値観、宗教、思想も多様で、多くの民族によってアメリカという国が構成されている以上、国民の総意を得るという事が国策の重要課題なのだ。
 
 80年代までは、ソ連という仮想敵国の存在があったから、国民の意識をそこに集約し、多数の不満を吸収することで政局を乗り切ることができた。90年代、米ソ冷戦構造は消失したが、中東諸国、特にイランのホメイニ師が掲げたイスラーム復興主義、すなわち原理主義が、キリスト教国・アメリカの民主主義を脅かすというプロパガンダをアメリカは得たのである。
 
 イスラーム教のジハード(聖戦)については、別稿で述べた(今日のトピック・神話の崩壊)ので、先を急ぐ。イスラーム・原理主義は、自分たちは「平和の国」、アメリカを強大な武力を背景とする「戦争の国」とみなしている。アフガニスタンのタリバンをはじめとするイスラーム過激派の最強の支柱は、神は自分の側にあるということである。
 
 神は自分の側にあるから、「戦争の国・アメリカ」に対してジハード(聖戦)を行うのは自分たちの使命と考えているのだ。これは、イランもイラクも、その他中東のイスラーム原理主義者はすべて同様の価値観を持っている。
 
 さて、米国がイランやイラクなどを仮想敵国とみなすのは、ペルシャ湾岸の石油という宝の海をめぐる利権争いの存在である。
 
 米国が自国だけでも4兆円以上の予算を割き、きたるべき戦闘に備えるとすれば、米政府は必ず収支決算をすると思われる。いや、すでに収支の帳尻を合わしていると考えてよいだろう。
 
 戦闘行為に対する了承を世界各国から取り付けるだけの値打ちはある。それは米国の外交戦略そのものなのだ。今回米国はテロを支援する国も攻撃の対象とする、ここがみそなのである。テロ支援国とは具体的にどの国をいうのか。米国が本当の攻撃目標としているのはテロリストか、中東の某産油国か。
 
 長くなった。唐突で申し訳ないが、今後21世紀は、キリスト教的アメリカと、儒教的中国と、イスラーム教的(原理主義的)中東諸国との三極構造となるだろう。しかし、米国としては三極構造など望んではいない。特に、価値観が対極にあるイスラーム教国の力が強大になることなど真っ平御免であろう。世界が米国の価値観に追随することこそ、望ましい姿ではなかろうか。
 
 来るべき三極構造のはざまで、EUが果たす役割は重要である。この国は…、正直わたしには何も見えてこない。日本の果たす役割とは、本気半分で言うと、憲法改正しなければどうにもならないのかもしれない。軍事力を、それも強い軍事力を持たない国は、世界の中での発言力も乏しい。経済援助を背景とした発言力など、たかだかしれている。
 
 弱者ならずとも、人はだいたい強い者の庇護と援助を求めるものなのだ。そういうレベルではないと思うかもしれない。しかし、この世のよしなし事は、そういうことで動いているのである。
 
 米国の真意、もうすぐ見えてこよう。
 
      (2001年9月15日午後5時4分脱稿)
 
      
 
更新日時:
2001/09/15
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