44      三文オペラ
 
 普通の感覚をもつ人が、普通に物事を考えることをやめてしまったら、それまで手ぐすね引いて待ちかまえていた魑魅魍魎が一気に襲いかかってくるだろう。
 
 小泉さんが掲げていた「構造改革」とは何か。特殊法人を民営化するための不可欠要件は、予算配分を決める政治家や官僚の意識を変えるという事ではなかったか。いくら声高に構造改革を叫んでも、国民はその改革に手出しできない、ということは、構造改革に着手できる人間の考えを変えなければ、構造改革は挫折するということではないのか。
 
 官僚や政治家の意識が旧態然としていれば、構造改革など水際ですべて阻止されることは誰の目にも明かなはずである。今回のドタバタも、考えるまでもなく、複数の外務官僚が一政治家である鈴木某の意向に背けなかった事が引き金となっている。
 
 小泉さんは鈴木某の名を挙げなかったが、それを情けないと言っているし、役人が議員の圧力に屈してはならないとも言っている。そんな事は東大法学部卒の外務官僚はみな分かっている。分かってはいるが、相手が名うてのハチャメチャゆえ、無理が通り道理が引っ込むのであるし、長いモノに巻かれるのである。そうしなければ後が怖いのである。何をされるかわかったものではないから、みな戦々兢々としているのだ。鈴木某の手法は北朝鮮政府のそれであり、事の真偽を棚上げして、相手を徹底的に非難・攻撃する。
 
 外務省に男が少ないから、こんな不思議な、諸外国から見て三文ほどの値打ちしかないような芝居が興行されるのであるが、翻って言えば、なに男は最初からいないのである。いや、かつてはいたが、バカバカしいから男は全員離職したのだ。外務省・北米第一課長だった岡本行夫さんはその好例である。
 
 役人がみんな岡本さんや小泉さん、菅さんのような人なら、構造改革など瞬時に実行できるであろうし、そもそも構造改革の要はなかったのではあるまいか。私は上記のごとく外務省の肩を持つ気はないが、小泉さんをかばう気もない。
 
 小泉さん、彼らはみな傲慢で臆病だし、それゆえ強権的な鈴木某には逆らえないのですぞ。それを、一議員の言動に左右されたり、屈服するような事があってはならないなどと、人のこころの分からぬ事を言ってはなりません。どうしようもない政治家が跋扈しているからこそ、あなたの出番があったということを忘れてはならないと思います。
 
 また、国会の審議と今回の真相究明を天秤にかけるのはどうかと思いますナ。両方とも同じくらい大切な事なのだから。今後は国民&自民党双方からの求心力を失うことは必至でしょう。今回の一件では、小泉さんは千両役者から一気に三文役者に格が下がったような気がしました。
 
 第二次大戦に日本が参戦する直前、リトアニア領事(代理)であった杉原千畝さんは、外務省の命令に逆らって6000人のユダヤ人の命を救いました。杉原さんはきっと草葉の陰で言っていると思います。「ぼくは人間として普通の、当たり前の事をしただけです。ぼくのことを美化したり、英雄視したりするのはどうかと思う。外務省の考え方が普通ではなく、その国家観は時として非人道的なだけです」と。
       
 
 
更新日時:
2002/01/31
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