37      えじゃないか
 
 ワールドカップ開催中とあって、メディアは総サッカー化している感がある。これはというゲームを観ることは私にもあり、各国の戦いぶりを通して様々な事を考えさせられるが、あまり声高にいうと、せっかくのお祭りムードに水をさすので控えていた。
 
 緊迫したゲームはいつ観ても面白く、双方がスポーツマン・シップを発揮して、フェアーに試合を運んでくれれば何も言う事はない。しかし、そうはいかないのが勝負の世界。これが実に不愉快で腹立たしい。私はラテン民族やラテン国家に何の恨みもないが、彼らはなぜああも汚いプレーを執拗に繰り返すのか。審判に見つからなければ儲けもの、とでも思っているのであろうか。サッカーは格闘技ではなく、球技ではなかったのか。
 
 イングランドはすっかりフーリガンで有名になってしまったが、そもそも英国(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)にはフェアプレーという厳かな伝統が歴然と存在する。
 
 フェアプレーは特にスポーツの世界に特有のものでもなく(当たり前ですね)、英国では国語の教科書にものるほど一般的、庶民的、普遍の価値である。いや、価値などと書くと拘る人もいようから、英国民の身体の一部とでも書いておこう。
 
 彼らが重視するのは、フェア、パブリック、プライベート(publicとprivateは反対の意味なのですが、そこが愉快)、トラストといった言葉に内包する精神である。勿論、そんな事はどうでもよいという人が英国にも少なからずいるとは思うが。
 
 スペイン対アイルランド戦を観てつくづく思うのは、ラテン民族にフェアという意味の言葉はないのか?ということである。彼らの辞書にそれを意味する言葉は無い、そう思わせるに充分なスペインの小狡さ、汚さであった。
それに較べてアイルランドの選手のきれいなこと!
 
 私はスペインだけを槍玉にあげるつもりは毛頭ない。だからラテン民族と書いた。どの国がラテンなのか、読者諸氏の賢明なるご判断に委ねる事といたします。今後ベスト8入りを賭けて争う国の試合ぶりを観戦されれば、一目瞭然であると思います。なに? ゲルマン民族にも汚いやつがいるですと、いますナ、たしかに。
 
 お祭りだからいいじゃないの、そう言ってしまえばそれまでで、味もしゃしゃりもない。ワールドカップ観戦で何が分かったかというと、早い話、選手の資質と本質が分かった。脚力、運動能力という資質にきわめて優れているが、トリックプレーや、プレーを逸脱したずるさに長けている選手もいる。
ずるさは人間の本質である。
 
 これはスポーツにかぎった事ではないのだが、何かを評価(プラスの評価かマイナスの評価かは別として)する場合、知っている専門用語や装飾語を多用したり、羅列するだけでは本当の評価とはいえまい。
 
 料理やお菓子の評価も同様で、たいした経験も鋭い味覚も持ち合わせていない人が、知ってる言葉をダラダラ並べ立て、何が何してなんとやらなどと蘊蓄を述べても、なにも語ったことにはならないのである。
 
 そいう手合いが、くだらない店に最大限の評価を与えるから、コトは余計ややこしくなる。味覚の未発達な方にとっては何の問題もないが(米国人など)、自腹を切って高い料金を支払ってきた者には、いいじゃないかと見過ごすわけにもいくまい。
 
 いつぞやの、どこかの国の予選は、決勝トーナメントに進む事が分かった瞬間、ダレまくっていた。あれでは観客に失礼千万であろう。たいへんな思いをして、高い入場券を買って観に来た人は内心怒っていたと思う。
 
 かくなる理由で、えじゃないかと済ますのはお断りなのである。
 
 
更新日時:
2002/06/17
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