2      藤井氏更迭
 
 「私は地位に恋々とするタイプではない」、これが記者団に対する日本道路公団総裁・藤井治芳氏のコメントである。そのときのニタリ顔から察するに、よくよくこの人は地位に恋々とするタイプであると思われる。
 
 財務諸表をめぐってのゴタゴタは、道路公団という特殊法人の素顔を公衆の面前にさらけ出すのに一役買った。影の予算といわれ、国家予算の3倍ほどにものぼる膨大な金があつまる特別会計。そのほとんどはこの国の特殊法人に流れる。特別会計の主たるものは郵便貯金である。
 
 旧郵政省が、予算編成権をもつ旧大蔵省(主計局)にデカイ顔をしてきた理由は、実は特別会計なるものを牛耳ってきたからである。旧建設省のトップ・事務次官を経て、道路公団総裁に就任した藤井氏は、いわば建設・土木のドン、高速道路建設などの公共事業の親玉といっても過言ではない。
 
 こういう人が莫大な予算をタレ流しにする組織のトップにいるとロクなことはない。やすやすと利権目当ての道路族議員と結びつく。220兆円はあろうかと見積もられる郵貯の大部分を占める定額貯金は、預金者のほとんどが満期が来るまで解約しないだろうし、満期が来ても再預金するだろう。つまり、郵貯のほとんどは眠っている。
 
 国家の保証がついているから、旧郵政省倒産の心配は不要。そして、特殊法人の多くは決算はおろか収支報告書さえ作成せず、また、特殊法人は非課税団体ゆえ一円の税金も支払わず、ぬくぬくと、のうのうと、長年にわたって郵貯から供出される特別会計の無駄使いをしてきた。大赤字を出しても、わがまま勝手のし放題。道路公団はそういう無駄使いの旗手である。
 
 天下った官僚が道路公団などの特殊法人を3軒ハシゴすれば、たった6年で退職金は1億を超え、その退職金は私たちの税金で支払われる。小泉さんが郵政、および道路公団の民営化を唱えるのは至極当然の話なのだ。
 
 民営化されたからといって、郵政と公団の職員が解雇されるわけのものではない、そのまま全員が勤務を続行するのであってみれば、問題はない。問題なのは、民営化によって天下りできなくなる幹部官僚の不満であり、先輩は天下りしていい思いをしてきたのに、俺たちの代にできなくなるのはあんまりじゃないかという憤慨なのである。そういう連中と、税金を免れてきた特定郵便局長、および、選挙票と献金目当ての族議員が民営化反対なのだ。
 
 さてさて、うれし恥ずかし退職金、ならまだしも、彼らの辞書には恥ずかしいという文字がない。たぶん、長い間官僚をやっているうちに、どこかに置き忘れてきたか、ドブにでも捨ててきたのであろう。あるいは、悪臭たちこめるドブにどっぷり漬かって、自分の姿が見えなくなったか。
 
 石原伸晃国交相の決断は、あらかじめ予想されたこととはいえ、良識ある判断の上に立った決断であり、それは、「私を納得させられないのに、世間を納得させられるわけがない」のことばにあらわれている。
 
 小泉内閣の株=支持率はこれでまた5ポイントほど上がるのではないでしょうか。なぜ石原国交相は今日、10月5日に藤井氏を呼んで、こういう状況をつくったのか‥。今日は民主党の団結式(合併大会)、ライバル政党から小泉内閣にメディアと国民の目を向けさせるための高等戦術です。政局はすでに総選挙モード、伸晃さん、やるじゃない、そう言っておきましょう。
 
 
※附記:10月6日、藤井氏は石原氏の求めた辞表を提出しなかった。藤井氏の言い分では辞める理由がないからというものだが、真意は昨日今日就任したばかりの若い大臣の言いなりにはならん、解任するならやってみろ、ということであろう。要するに悪あがきなのだが、みっともないというか、往生際が悪いというか、所詮自己中心人間、自分の姿が見えていない。扇前国交相は相変わらず藤井氏を擁護している。藤井氏をかばえば、何か良いことでもあるのだろう。参院選の票だという話もあるが、真偽のほどは不明※
更新日時:
2003/10/06
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