19      無題U
 
 ここのところイラク問題に関して様々な報道が闊歩し、戦争か平和かが各所で論じられているようである。私は実は少々うんざりしている。一体この世で大量虐殺を好む国民がいるのであろうか、いたらあわせてもらいたい。
 
 たしかに好戦的な輩は存在するし、血の気の多い連中もそこかしこにいる。だいたい、昨今の著しいスポーツ志向は、時の流行と、やたらめったら昂奮する人が多いことにも因ると思うが、事と次第によっては喧嘩も辞さない(スポーツは諍いが高じて暴力を伴うこともあるし、観戦者にそれを好む者も多い)という狼藉者もいて、それもこれも食生活の変化、肉食の増加と因果関係があるという人もいる。
 
 スポーツ隆盛はおおいに結構であると思うが、スポーツにあやかって、偽スポーツマンのおっさんや若者が江戸時代の旗本・白束組のごとく、でかい顔して暴れまくっては迷惑だ。本物のスポーツマンは礼儀正しく忍耐強いが、偽者は無礼かつ横柄で、すぐキレる。だから迷惑なのである。
 
 さて、喧嘩と戦争は違う、そんなことは小学生も知っている。知っているが、経験がないから時々混同することもある。なに、大規模な喧嘩が戦争なのである。喧嘩で人が死んでも、数万、数十万にはならないが、戦争となると低く見積もっても数万の犠牲者が出るだろう。戦争は職業軍人ばかりか市民も巻き込み、人心も国土も疲弊する。勝っても負けても喜べはしない。
 
 勝って喜ぶのは、負けた国民の惨めな様子に冷ややかなタカ派の米国政府くらいなものである(米国が負ければイラク国民は狂喜するであろうが、それはない)。風が吹けば米国が儲かる。膨大な予算と通信衛星、軍事力を誇っても、所詮は単細胞、議論と弁証法ではフランスの敵ではない。フランスは‥デカルト、パスカル、ダランベールを産んだ国、弁が立つ。
 
 サダム・フセインのおっさんなどクソ喰らえ、とたいていの人は思っている、某国の将軍さま同様に。一日も早く失脚するか亡命して、選挙で為政者を選べる日の近からんことを願う人は多い。悪いのは、無知なる臣民を教育という手段で意図的に洗脳する独裁者であることも分かっている。
 
 EUには(特にフランス、ドイツ)アラブ系の外国人労働者も多くいるので、イラク問題はそのまま国内問題に直結する、ましてこの不況である、戦費を捻出するのは大変、さらなる不況を招きかねない、だからフランスやドイツは戦争を回避したいというもっともな理由もある。
 
 戦争が勃発しても、戦地から遠く隔てられた米国は戦争の被害とも無縁であるし、高みの見物も可能であるが、戦地に近いEUへは難民がどっと流れてくるであろう、そうなればそれなりの対応が焦眉の急となる、またまた頭が痛い。地理的条件も米国とはまったく異なる、EUが戦争に難色を示すのは当たり前の話なのだ。
 
 私は米国政府もイラク政府(サダム・フセイン)も大嫌いである。君の好き嫌いは問題ではない、はい、たしかにその通りです、そういってしまうと身も蓋もないが、私は米国もフセインも胡散臭いし、偽物のにおい芬々ゆえに嫌いなのだ。このコーナーの「神話の崩壊」、「米国の真意(または三極構造)」で述べたゆえ繰り返さない。未読の方はご一読いただければ幸いです。
 
 ついでにいうと、何かにつけて正義面する輩、わけしり顔、しかつめらしい顔をしたがる者、ホヤホヤの平和主義者にも背筋が寒くなる。そういう連中の口癖だが、戦争は悪であるとか、イラクに対しては武力とは別の方法を考えるべきであるという類の発言をする。そんなことは子供でも言う。
 
 ともあれ、フランスが米国に対してとった態度は正鵠をついていた。フランスの外相は、われわれと米国とではアラブ人とつき合ってきた歴史の長さが違う、われわれはアラブを熟知していると米国を牽制した。EUはああでなければ困る。事のついでにEUさん、サダム・フセインを永久追放する良い手だてを講じてはくれないだろうか。
 
  
更新日時:
2003/02/19
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