17      イスラム世界vs米国
 
 とんでもない情報が耳に飛び込んできた。米国がイラクに武力行使すれば、アズハルはイスラム世界にジハードを宣言するというものである。アズハル=アラビア語で『輝けるもの』を意味し、カイロにあるイスラム神学の最高学府=はイスラム教の最高権威である。
そのアズハルがイスラム教徒(スンニー派)に対して、米国へのジハードを明言したのが事実なら、これは米国対イラクの戦争どころではない、もっと深刻な意味をもつ。
 
 アッラーを信奉する敬虔なイスラム教徒は、アズハルの宣告、宣言に従わなければならないと一般的にいわれている。。即ち、イラクに対するこのたびの交戦の結果いかんにかかわらず、米国は常にジハードの対象となり、それは米国が常時テロの危険にさらされるという意味である。
 
 アズハルがそのような宣言を行い、今後それが撤回されなければ、米国は日常的にジハード(聖戦)の標的にされる。ジハードはイスラム教徒にとってもっとも基本的かつ重要な命令あるいは命題である。
米国がイスラム世界に対して行っている行為は、イスラムからみればキタールである。キタールとは、侵略、領土拡大、資源確保、戦利品獲得など、人間の欲望あるいは憎悪にもとづいて行われる戦争のことである。
 
 ジハードは元来イスラム世界を守るための防衛戦争であり、欲望や憎悪から生じたキタールとは異なる。20世紀末〜21世紀にかけてジハードの拘束力は徐々に弱まっているとはいえ、敬虔なイスラム教徒の心のなかにジハードは歴然と存在し、イスラム世界を守るのは彼らの使命、義務である。
私たちが無益とか無意味とか思う価値観とは別な所でイスラムの教えは生きているのだが、敬虔なイスラム教徒すべてがジハードとキタールの識別を明確に行っているかどうかはきわめて疑わしい。
 
 今回の戦争終結後、アズハルの宣言が有効であるとしたら、米国では相当期間テロの嵐が吹き荒れる可能性大で、それは、昨今のイスラエル都市部での無差別テロ状態を想起させる。アズハル(大学)の卒業生はイスラム世界だけでなく地球全域に散らばっており、日本にも卒業生(日本人)はいる。
 
 日本在住のアズハル出身者がテロに加担するとは到底思えないが、イスラム世界に分布する彼らはどう思っているかは分からない。直接行動を起こさずとも、心情的に彼らはイスラム世界の人間なのだ。
 
 私が耳にした情報が誤報であればそれに越したことはなく、仮に誤報でなかったとしても、アズハルが出した宣言を一刻も早く撤回することを願ってやまない。米国のためにではなく、私たちのために。
現状をつぶさにみれば、歴史は19世紀ヨーロッパ列強(大英帝国、プロシア、フランス、ロシア)が覇権を競い合っていた時代に逆行したようにも思え、米国はまさに列強=大英帝国、プロシア、フランス=を足して3倍したくらいの軍事力を誇示している。
 
 イスラム世界が束になっても米国の軍事力には対抗できないが、イスラムの宗教的影響力にはあなどれないものがあり、米国へのジハードが憎悪から派生したものであったとしても、将来的に間断なく続くとすれば‥私はいま陰々滅々とした気分である。
     
        (2003年3月20日午後7時脱稿)
 
更新日時:
2003/03/21
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