9   2001年7月松竹座昼の部 「身替座禅」
更新日時:
2001/07/19 
 
 さて仁左衛門である。「身替座禅」は狂言の「花子(はなご)」から歌舞伎に輸入された、いわゆる松羽目物で、奥さんの玉の井に座禅するから見に来ないでと偽って、愛人の花子(ジャストホームではありません)に会いに行く山蔭右京の物語。たぶん玉の井が様子を見に来るであろうから、用心として身替わりに郎党の太郎冠者が右京になりすますが、これがすったもんだの挙げ句ばれる。
 
 右京に仁左衛門、玉の井に左団次、太郎冠者に橋之助。 
仁左衛門の右京は十年ほど前、7月中座で見たが、その時は八十助(現三津五郎)が玉の井だった。所作事のうまい玉の井で、足さばきのよさが印象的であった。
 
 菊五郎も右京をやると絵になる。仁左衛門と菊五郎の右京の違いは、菊五郎は登場した瞬間から舞台一面に色気が立ちのぼり、もう、いかにも女好きという風情であるのに対して、仁左衛門は可愛く気品に満ちた右京である。それがまず一点。
 
 つぎに、仁左衛門は玉の井に遠慮がちに花子のもとへ行くという心情が見られるが、菊五郎は矢も楯もたまらないという気持ちが表に出る。仁左衛門はお内裏さまのように品よく浮気するが、菊五郎はマグロのトロ、脂がのっている。
 
 両者の個性の違いがもろに出て、それぞれにいずれも劣らぬ面白さであり、甲乙つけがたいものがある。
 
 今回の仁左衛門、十年前の中座のときに較べてせりふ回しが格段にいい。「このふすま取るな〜」、「もの言うな〜」というせりふの語尾を上げるのだが、この上げようが実にいいのである。ちなみに「ふすま」とは打ち掛け状のうすい掛け布団の事。
 
 詳しく言うのは歌舞伎評論のタブーゆえ、思い切り笑って、暑気払いなさりたい方は劇場までおはこびください。恐妻家の男性、夫を尻にしく女性は思い当たることがありましょう。
 


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