11   2001年7月松竹座昼の部 「封印切」
更新日時:
2001/07/03 
 関西でもっとも再演回数の多い狂言である。あらかじめお断りするが、現歌舞伎役者の「封印切」のベスト・メンバーは、鴈治郎の忠兵衛、仁左衛門の八右衛門、秀太郎のおえん、鴈治郎の梅川である。
 
 梅川役者は残念ながら鴈治郎をおいて他にいないので、上記の配役での「封印切」は上演不可能というわけなのだ。
 
 今回は若手中心で、翫雀の忠兵衛、染五郎の八右衛門、福助のおえん、孝太郎の梅川という布陣。このメンバーでは、見る前から芝居の内容が分かろうというもの。
案の定、予想に反してという喜びはなかったのであるが、ただ一点、染五郎の八右衛門に見るべきものを感じた。
おそらく、今回の松竹座の座頭である仁左衛門から直接指導をうけたのであろう、福助が慣れない上方弁を使うのに右往左往するさなか、染五郎はよくやった、見事。
 
 東京の役者が上方のことばをマネすると、どこのことばか皆目分からないようなイントネーションになる。それと、上方弁特有の間が取れないので滅茶苦茶となる。染五郎はそういう聞き苦しさがほとんどなく、変なリキミもなく、上出来であった。
 
 ただ、仁左衛門の八右衛門を何度か見ている人にはお分かりのように、せりふの言い回し、抑揚、間、息、すべて仁左衛門生き写し。小型仁左衛門とでもいえばよいのか。しかしながら、これが歌舞伎なのである。初役(だと思う)で初日、そうなって誰がとがめられよう。染五郎も何度か八右衛門を演じているうちに、新境地の開ける日が来るであろう。
 
 染五郎の今後のために、気になった事をひとつだけ書く。例の「金のないのは首のないのとおんなじや」というせりふ、これはこの場一番の名せりふであるが、このせりふを言うときの間に一工夫いる。それまでは忠兵衛に対してたたみかけるように言っていたせりふも、ここでひと呼吸おいて、「金のないのは、首のないのと、おんなじ や」と、たっぷりと言わなければならない。
 
 それで客の納得を得ることができるのだから。おおかたの客はこのせりふによって、八右衛門への憎悪の念を燃やすだけでなく、得心もするのである。そこが近松の才能なのです。
 
 


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