ラドゥ・ルプー
ラドゥ・ルプー
ルプーは1945年、ルーマニアのガラティ生まれ。現在数あるピアニストの中にあって、「千人にひとりのリリシスト」と言われ、その名にふさわしい独自の位置を占めている。
 
 わたしもルプーのCDを何枚か持っているが、シューマンの「ピアノ協奏曲イ短調」、グリーグの「ピアノ協奏曲イ短調」、シューベルトの「即興曲集D.899,D.935」などは秀逸。
とりわけ前二者は、叙情的なきらめきはむしろ影をひそめ、内なる情念が噴出するかのごとくであり、官能的ですらある。
 
98年10月29日大阪いずみホールでルプーのリサイタルを聴いた。ベートーベン「ソナタ 第15番、同32番」、ラヴェル「ソナチネ」など。
ベートーベン弾きとしては、死んだピアニストは別として、今もポリーニやブレンデル、アシュケナージなどが健在であるし、世界の何処かできょうも演奏会を開いていると思う。
 
 そういう人たちの生演奏は、ああ、やっぱりCDで聴くとき以上にに聴かせるなと思う。こちらの期待と等身大のリサイタル。
しかしながらルプーの演奏は、それ以上の何かがあるのではないかという事を予感させるのである。
 
 この人ほど自然体という言葉がピッタリする人も少ないように思う、この風貌にもかかわらず。ベートーベンのピアノソナタをしっかり見事に、透明感の高い、抒情に溢れた、すみずみにまで細やかな神経の行き届いた弾き方をしてくれたので、「うん!」と納得して「いずみホール」を後にしました。

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