クレーメルとリヨン管弦楽団
クレーメルとリヨン管弦楽団
ギドン・クレーメルは1947年ラトヴィア共和国のリガ生まれ。ヴァイオリン音楽の奥深さを問い直す契機を示した天才肌のソリスト。96年5月28日京都コンサートホールで、エマニュエル・クリヴィヌ指揮、リヨン管弦楽団とのカップリング。チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」を華麗に力強く弾ききった。
 
かつてハイフェッツやD・オイストラフという巨匠が活躍していたが、彼らの死後、後継者不在とも言われていたヴァイオリン界に彗星のごとくデヴュー。その非凡なテクニックはパールマンを凌ぐと評された。
この人のヴァイオリンはただ美しいのではない、美しいだけなら、若手のF・P・ツィンマーマンもいるし、ギル・シャハムもいる。むしろ彼らのほうが美しさにかけては上ではないかとも思う。
 
だが、この人のヴァイオリンは攻撃的。そう言って悪ければ悪魔的。美しく聴きたい部分でわざと汚く弾くこともある。
あれ、最初からそういう意図があるのではなく、たぶん、弾いている内にイタズラ心が湧いてくるんでしょうな。とにかく変幻自在。
それをどう思うかは観客にもよるのですが、わたしは敢えて面白いと言っておきましょう。
 
クリヴィヌの指揮は過不足のない指揮です。クリヴィヌは、94年6月27日シンフォニーホールでもリヨン管弦楽団との共演を聴いているので別稿に譲るとしまして、リヨンの十八番はやはりラヴェルの「ボレロ」。
例の打楽器のだんだんと大きく速くなるスリリングな風合いというか色彩の面白さは、ちょっと他では味わえない質感ですね。
 
 リヨンが来日したら、席はLでもRでも、とにかく2階バルコニーのできるだけ舞台に近いところをお奨めします。その打楽器を叩くおじさんが確認できるからです。
そういう楽しみ方もあっていいのではないかと思います。自分がお金を払っていくんだから。
 
余談になりますが、クレーメルは映画「無伴奏シャコンヌ」の中の主人公(ヴァイオリニスト)の代わりに弾きます。勿論、スクリーンには登場しませんが。ベートーベンの「ヴァイオリン協奏曲」、そして、タイトルであるバッハの「シャコンヌ」。
映画を見に行って、スクリーンそっちのけで音楽だけ聴いていたような感さえありますが、言うまでもなくこの映画、素晴らしい出来映えで、わたしの映画ベスト・スリーのひとつです。
 
 ヴァイオリンには魂が入っているという事が分かるような映画です。ご承知のように、ヴァイオリンには魂柱というのがあります。

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